三段山事故報告書の掲載について

これは、おーにしが山岳会に所属していた頃、三段山入山中に事故が起こった際の報告書です。
今回の掲載にあたって、私以外の氏名は省略させていただきました。また、原文はかなり長文なので文章も一部省略させていただきました。
雪崩や滑落については比較的安全だと思われている三段山でも、このような転倒による事故は起きます。私は今までに、三段山でこのような事故の現場に3回ほど立ち会ったことがあります。
今回報告した事故は、遭難とは違って軽い事故だと思われるかもしれません。しかし、もしもw氏が単独行だったらどうなっていたでしょうか?一事故の対処例として、何らかの参考になれば幸いです。

                   1999.12.2 文責 おーにし

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1994年4月11日 報告者:おーにし
入山地域:三段山
目的:山スキー
入山期間:1994年4月9日(土) 日帰り
参加者氏名:
CL おーにし,SL s  以下w,h,g 合計 5名

気象:曇り時々雪(視界不良)
地図:1:25000 白金温泉 十勝岳、1:50000 十勝岳
装備:冬山装備(日帰り)、山スキー一式、デポ旗、ツエルト、シュラフカバー、ザイル、カラビナ、無線機(この頃には、まだ携帯電話を持っていなかった。この一件後すぐに購入した)

行動記録:4月9日(土) 旭川 8:00=9:45 白銀荘=11:45 -12:10三段山山頂=12:30 1450m付近でw氏負傷=13:00 おーにし、hが白銀荘へ到着=13:20 おーにし、hが救命ボブスレーを携行して白銀荘出発=14:30 -15:00w氏と合流=16:30全員白銀荘へ到着=18:30 旭川市内の病院へ到着

8:00 おーにし宅出発。天気予報では曇りのち雪ということだったが、朝の時点では天気は良好だった。午後になって天候が崩れる前に登頂を完了出来るだろうとの読みから、デポ旗を多めに持っておーにし、wさん、g君、h君の4名で旭川を出発。途中s氏と合流して三段山へ向かった。

9:45 白銀荘に到着。駐車場に他の車は無く、先行している登山者は見あたらなかったが、トレースはかなりはっきり残っており雪質は上々だった。天候も薄曇りで、山頂付近もかすかに見えている状況だったので、予定通り登頂を開始した。
沢全体が雪に埋まってくれていたので、ハイマツの出ている尾根沿いを避けて登攀コースを沢沿いとした。登攀のペースは快調だったが、森林限界のあたりからガスがひどくなってきたので、そこからデポ旗打ちを開始した。 頂上直下では視界不良のためデポ旗の間隔は30メートル程度にまで落ち、後方から先頭に対して時々コースの修正を指示しながらの登攀になった。

11:45 山頂に到着。風や降雪は激しくはないが、かなり体が冷えやすい状況だったので、昼食の後早々に12:10頃下山を開始した。
頂上直下では視界の悪さとアイスバーン状の雪質のため慎重な滑降を行っていたが、1650m付近から雪質はアイスバーンの層の上に粉雪が20センチ程度積もっている良好な状況に変化し、視界もある程度回復してきたので、かなりハイペースな滑降となった。

12:30 1450m付近。皆から100mほど遅れていたwさんが転倒したまま、なかなか起きてこない。かなり苦労して立ち上がり、近くまで滑ってきてくれたが、そこで再び転倒して起きあがれなくなってしまった。wさんによると、なにかに引っかかる形で前のめりに転倒してしまい、足をひねってしまったそうである(ハイマツにスキーが引っかかった可能性が高い)。
この時点で救援を呼ぶ必要があるかどうかwさんに問いたが、だましだまし滑降できるかもしれないとのことで、再び慎重に滑降してもらったが、すぐに行動不能になってしまった。
wさんに現場で待機してもらうことを決定し、連絡を容易にするために無線免許を持っているs氏がアマチュア無線機を担当して残り、スキー滑降が不得意なg君もサポートとして一緒に待機。スキー滑降の得意なおーにしとh君が白銀荘に急行してスノーモービルでの救援を要請することになった。
w氏にはセーターとシュラフカバーで体温の低下を防いでもらい、3人でツエルト内で待機してもらっていた訳だが、かなり寒さにまいったようだ。
かなり遅れてしまった救援を、忍耐強く待っていてくれたs氏とg君は大変だったと思う。

13:00 おーにしとh君が白銀荘に到着。管理人に事情を話したところ所有しているスノーモービルの出動を断られ、救助用スノーボートのみ貸してもらえることになった。又、救急車の出動を頼むかどうか問われたのだが、そこまでの必要性は無いと思い断った。
筋書きが狂ったので、おーにし車に搭載していたアマチュア無線機でs氏に経過を連絡し、スノーボートを荷揚げする応援に、途中まででもg君に降りてきてもらおうとしたのだが、コールサインに対する応答が一回あっただけで、そのまま交信が途絶してしまった。そこで、おーにしとh君の2名でスノーボートを荷揚げしたのだが、重量的に必要最低限の人数だった。一人で荷揚げするのは不可能ではないが、かなりの体力を消耗し時間もかかってしまうだろう。

14:30 やっと1250m付近に到達。そこで、ちょうど天候の悪化を懸念して肩車で降りてきてくれたwさん達と合流できた。
合流地点でwさんをスノーボートにザイルで固定し、前に牽引役のhとおーにし、後ろに制動役のs氏とg君の4人体制で声を掛け合いながら下山を開始した。最初は前の2人はスキーで引っ張っぱり、制動役のみ壺足だったのだが、途中引っ張り役も壺足で下山した。雪質との関係もあるだろうが、この時は壺足の方が効率が良かった。
4人という人数はこの様な下山に必要最低限の人数だと思われる。その意味で今回の事故は、人数的には非常についていた。

16:30 白銀荘へ到着。白銀荘の管理人が迎えてくれたので、お礼を言ってスノーボートを返却し、直ちに病院へ向かった。その際、空いている旭川の病院を電話で探してくれたs氏の奥さんに深く感謝する。
wさんの診断結果は、内出血と内足じん帯損傷(全治6週間)だった。

[今回の教訓]
1)今回のけがの原因の一つに、無理なペースによる滑降があったと思われる。また、後方での転倒による事故に対処するためにも、各人の突出した滑降は好ましくない。
2)今回のけがに至った原因の一つにスキー金具の安全性も上げられる。wさんが使用していた金具は、おーにしが貸した旧式なジルブレッタ303だった。これには、ねじれ解放の機能を持つリリースは装備されていない。重要な装備には最新の安全性の高いものを使用しよう。
3)いざという時に携帯無線機が役に立たなかった。操作方法を習得していなかったため、待機側でトラブル(PTTスイッチと間違えて、周波数をリセットしてしまい、元の周波数に戻せなかった)に対処できなかった。ただ携行するばかりではなく操作方法の徹底も必要である。
4)救援が来るまでの待機に備えて、防寒具、ツエルトなどは必ず携行する(今回は幸いシュラフカバーも携行していた)。また、ザイル、カラビナなども当然携行する。
5)三段山といえど冬山。決して軽視しない。以前我々は、三段山でOR山岳会の事故に立ち会うことによってこのことを痛感した筈だった。今回の事故での対処に関しては教訓を生かすことが出来たが、事故を未然に防ぐことは出来なかった。これは、まだ三段山(冬山)を軽視していたためだと思われる。
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