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2006年3月18日(土)
三段山雪崩遭難の記録(2006.10.23に一部訂正)

2006年3月6日に三段山で初めて雪崩遭難が発生しました。この記録は、3月18日に捜索関係者に同行して遭難現場を調査したものです。

ご注意:この遭難は一切報道されませんでした。こちらでも遭難者とご遺族のプライバシーに配慮して、遭難者の住所、氏名、年齢等を伏せさせていただきます。故人のご冥福をお祈りいたします。


3月11日の遺体搬出の様子

遭難者:山岳ガイドをサポートできるレベルの力量。冬山経験のある青年。
テレマークスキーを車内に残し、山スキー(ダウンヒルスキーとSecure-fix)で入山。日帰りには十分な装備(ビーコン、シャベル、プローブ含む)を持って出かけた。

天候・雪質(3月6日)参考:qaliのHP
曇り時々雪
風:風向は南南西、風速は樹林限界以上はたぶん20m/s以上
視界:不良
気温:0℃
雪質:樹林帯上部はパックスノー、下部はそれより軽めの滑りやすいパックスノー
 
上富良野アメダスの気象データ 6日、11日に最大風速、気温、積雪共に高い値を示しており、この日に雪崩が発生している

3月6日の状況:(qaliのツアー記録より抜粋)
朝から暴風。昨夜から町では雨も降っていた。
白銀荘に着くと、気温も高いせいかガスで視界は真っ白。樹林帯ですら視界が悪いほどの珍しいガスの濃さ。
2段目斜面下では亀裂が入る雪が現れ始め、パックスノーの下はスカスカの雪。
樹林限界を越えることはもちろんできなかった。

全体図□部分の拡大図

遭難現場の状況(3月11日):
二段目の頂上部手前の東側斜面。
雪崩の発生地点には小さな雪庇があり、それが途中から切れていた。
雪崩れた斜面の斜度は約35度。
雪崩の規模は、幅7〜8m,長さ50m。比較的小規模なウインドスラブの面発生雪崩と考えられる。破断面の厚さはそれほど厚くなく、20cm程度と推測されるとのこと。
雪崩の発生地点の下部、約25mの樹木にスキー板が引っかかっていた。スキーにはシールが装着されていたので、登行中に雪崩に巻き込まれたと思われる。
遺体は、スキー板が引っかかっていた樹木からさらに25m下、沢のボトムにあたる地点に頭を下に逆立ち状態で埋没しており、ブーツのソールの一部が雪上に出ていた(スキー板は両足から外れていた)。
遺体を埋めていた雪は比較的柔らかだった。

当初、視界が悪い状態で雪庇を踏み抜いて転落し、雪崩を誘発して埋没したと推測されたが、現場の地形では踏み抜くような規模な雪庇が発達するとは考えにくい。
おそらく、樹林限界を超えたところで視界不良と強い西風に押される形でコースを逸脱し、さらに二段目の尾根の影で風を避けようとして東側の谷の斜面へ回り込んだところで雪崩を誘発し、転倒し流され、谷のボトムに堆積した雪に埋没したものと思われる。あるいは出発時間が遅かったので(15時頃)この地点で滑降準備をしようとしていたのかもしれない。
意識的にこのエリアに入ったのなら、
http://www.sandan.net/tour/2003/030112/030112.html
こちらの記述を読んでのことだったのかもしれない・・


二段目の全景(昨年)
赤い矢印の部分が雪崩の発生地点
雪崩の走路は尾根のむこう側

雪崩の発生地点(ピンク部分が推測される雪崩の走路)
遭難者は、右方向から風下となる雪崩の発生地点へ侵入したと思われる。大きな雪庇は発生できない地形

雪崩の走路の中間部分
赤い矢印の樹木に、スキーが一本引っかかっていた。

中間地点から沢のボトムを見下ろしたところ。
黒い×印が遺体の埋没地点

谷の上流から雪崩の末端部分を見たところ。黒い×印が遺体の埋没地点

雪崩の走路を下から見た全景

遺体が掘り出された跡
遭難現場を案内してくれた方に、感謝申し上げます。

この遭難は、雪崩の危険性を認識できずに、安易に風下の急斜面に入り込んでしまった事が直接原因と考えられる。
また、捜索関係者に話を聞いたところ、恐らく同行者が居れば遭難者は助かっただろうとのこと(スコップなどの雪崩装備の携帯が前提となるが)。単独行をする場合は、このようなリスクを十分承知の上で行動したい。
このような比較的小規模な雪崩と谷地形の組み合わせの恐ろしさを認識し、滑降時だけでなく登行時にも雪崩に対する警戒を怠らないようにしよう。

その他
残念なのが、入山届けがなされていなかったこと(登山届け、家族への伝言無し)。
遭難のあった日には複数のパーティが入山していたが、入山届けを記入していたのは1パーティ(Qaliツアー)のみ。この日に限らず、この傾向はいつものことである。
今回の遭難は、入山届けをしていても結果に変わりは無かったと思うが、特に単独行で入山届けや登山届けを出さず、家族などにも行き先を告げずに入山したら、行き先を突き止めるだけでも大変な作業になり、遭難救助に大きな支障をきたす。
今回の遭難では、6日から白銀荘に遭難者の車が残されていて心配されるも、入山届けが無かったために事態が把握できず、10日に捜索開始、11日に発見と、かなり捜索開始が遅れてしまった。捜索の初動が遅れると、助かる事故も助からなくなる。
十勝山域では、地元の方々の大変な努力で、入山届けを出しやすい環境を整備している。
http://www.sandan.net/sandan-guide/nyuzan.jpg


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