熊避けスプレー

counter assault

え?なんでテレマークの話題で熊なの?冬山に熊なんて居ないじゃん。と思われた皆さんへ、
まったくその通りだと言いたいのですが、そんなことはありません。
春スキー、雪渓スキーでは、熊さんと行動エリア&活動時期は一致します。
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私は、スキーツアー中にはまだ熊と遭遇していませんが、「山へ行こう。」のitoさん達はスキーツアーの最中に小熊につきまとわれています。熊の脅威はスキーヤーにとっても他人事ではないのです。
夏山行動中には何度も私は熊と「こんにちわ」しており、熊避けスプレーは手放せない存在となっています。MTBで林道を走るときにも携帯しています。

しかし、この熊避けスプレー、武器的な要素が強いためか、携帯には賛否両論があるようです。
まあ、「熊避けスプレーなんて重たくて邪魔だ。そんなの持つくらいなら、500mlのビールを持った方がマシ」なーんていう意見は無視しましょう。この手の人は、かならず「どうせ使わないし」という、全く根拠の無い科白も後に続けたがります。

「本来熊の生息地であるところへ勝手に人が入るのだから、もっと謙虚になるべき。熊避けスプレーなんてとんでもない」というネイチャー思想的な意見も耳にします。
まあ、これはその人の信念に関わることですから、私はあまりとやかく言いません。

他の防御策も検討してみましょう。
ホイッスルは、事前に熊に人間の存在を知らせるものですから、怪しい山域では常に吹いてやらないないといけません。これは、結構労力を要します。
鈴は、勝手に自分の存在をアピールしてくれる便利な奴ですが、これをうるさく感じる登山者も居るようです。
ラジオや、大きな声でのおしゃべりよりは、よほど気の利いた音色だと思うのですが・・・まあ、熊が絶対いないと確信できるような山域では鳴らさない方が良いですね。

ナタ・・・は、どうなんでしょうか。雑木を払うにも、熊と格闘するにも有効だと言って携帯する人がいますが、今時雑木を払いながら登山するシチュエーションがあるとして、それは許される行為なのでしょうか?
熊と格闘する武器としても、文明人の武器にしては少々原始的すぎます。
異種格闘技世界チャンピオンならいざいしらず、本当に貴方はそれで熊に勝てますか?勝ったとしても、熊に手傷を負わせることになり、熊を保護する精神に反します。

いやしくも、文明人ならもっとスマートな武器を持つべきです。
それが、ノンリーサルウエポン(非致死的兵器)熊避けスプレーです。
こんなに良いものなのに、私は他に携帯している人を見たことがほとんどありません。山で出会う登山者は、私が携帯している熊避けスプレーを見つけると、目を丸くした後で「あらーなんかおっかないもの持っているわねー」とか(ナタよりマシです)、「お!熊避けスプレーかい!わっはっは!」とか(なにが可笑しいのでしょうか?)言うだけです。嘆かわしいことです。

さて、鈴などを防御的・予防的な熊対策とするなら、熊避けスプレーはかなりアクティブな・・はっきり言って兵器・武器に近いものです。非致死性とはいえ、よく銃刀法に引っかからないものです。
現に、こいつを浴びると熊は一時的に手負いと同じ状況になると言われています。取り扱いには慎重さが要求されます。

過去の私の苦い経験を紹介しながら、この兵器とうまくつき合う方法を伝授いたします。

1.たかが唐辛子と侮るな!
熊避けスプレーの原料はカプサイシン。そう、唐辛子です。
そう聞くと、なんとなく侮ってしまいそうですよね・・・・ポテチに入っているとか、調味料に使えるかな?とか。
そこで、こいつの威力を示すエピソードをいくつか紹介します。
ええ・・暴発したんです。しかも私の職場で。
ある、昼下がりのこと、
「なんすカ?これ」
「熊避けスプレー」
「どうつかうんすカ?」
「こうやって・・・」ブシュー!!
「ぐわっ!た、待避〜皆逃げろ〜!」
という、笑い話のような事件が本当に起きまして、その瞬間30畳くらいある部屋にいた全員が待避。
その建物全体に、イヤーな臭いが充満し職場全体が騒然としました。ほんの1秒くらいの噴射だと思われますがその威力は凄まじく、しばらく部屋には誰も入れなかったそうです。
ほとぼりが冷めてから、特攻清掃班が部屋に入って、泣きながら(誇張ではない)成分を拭き取る作業をしましたが、その姿は限りなくサリンを拭き取る作業に酷似していたそうです。

次は私の自宅で・・・
我が家で宴会をしていたら、なんだか目がチクチクしてきました。
そのうち喉が痛くなってきて、どうにもたまりません。窓を開けたりうちわで空気を扇いだり(^_^;)しても状況は改善せず、お客さんと一緒に原因を探しました。
「ガス漏れか?」なんて言っていましたが、もしやと思い押入の奥に仕舞っていた、買ったばかりの熊避けスプレーを見てみようと、押入の戸を開けた瞬間刺激臭が!・・・犯人はこいつでした。
容器に目に見えないくらいのピンホールが空いていて、そこから極微量のガスが漏れていたのです。
大急ぎでビニール袋に詰めて、登山用品店へ突っ返しました。
漏れた量は極微量だったのに、素晴らしい威力です。あらためて熊避けスプレーの恐ろしさに震撼しました。

HYMLでは、次のような事件も報告されています。
>コイカクにテント泊し1839往復の帰り、上二股でヤブでストッパー紛失したみたいで熊よけスプレーが暴発してしまいました。
>自分は左わき腹、尻にかけまともに掛かり。
>そばの同行者にも掛かりました。すさまじいです。
>まず匂い,1、2分後に痛み、ハッカ油100倍くらい、そのあとは、やけどような痛み、数時間残ります。
>沢まで降りていて,洗えたり冷せたり出来ましたが、水が無い時の考えると恐ろしいです。
>これを浴びる熊がかわいそうになりました。

>使う事は無いと思いつつ、保険のつもりで寂しい山に行くときは持ち歩いていました。
>今回自分だけでなく、第3者にもかかってしまい動転してしまいました。
>その人はすぐ川入り体を洗っていました。
>自分もその後痛みが来て、川で衣服、身体を洗い,登山口まで20.30分間隔で身体を冷やさないと歩行できませんでした。
>往路だったら登山中止なったと思います、
>尾根筋だったらと思うと恐怖心がつのります。

実に痛ましい事件の数々ですが、私は同時にこれらの事件からこの兵器の威力に確信がもてて、かえって手放せないものになりました。

2.安全装置を確実なものにセヨ!
上記のような事故を防ぐ為にも、安全装置(セーフティ)には気を遣いたいものです。
標準でついてくる安全装置は、このスプレーの威力に対して不釣り合いなほど貧弱なもので、そのままではとても危険です。最低でも消火器クラスか、手榴弾並の安全装置が欲しいところです。
藪こぎなんかしたら、一発でセーフティなんか行方不明ですよ。実は、私も一度藪漕ぎの後、気がついたらセーフティが無くなっていて焦ったことがあります。そのまま携帯するとなにが起こるか分からないので、ビニール袋に入れて、ザックに厳重にしまってしまいました。これじゃ、何のために持っているか分かりません。
以来、セーフティに穴を空けて、そこへ紐を通して本体とつないでおくように改造しました。
現在販売されている熊避けスプレーのセーフティには、そのための穴が最初からついています。
これで、セーフティが行方不明になるのは防げますが、不用意にセーフティが外れて暴発する心配は残ります。
そこで、さらに輪ゴムでセーフティと本体を括ることにしました。
思いっきり引っ張ると使用可能となります。この辺は皆さん各自工夫してみてください。
でも、本当はメーカーにこの辺をしっかり対処してほしいものです。
安全装置の工夫詳細

3.ホルスターは必携だ
熊避けスプレー本体だけを買っても、あまり意味がありません。
ホルスターも同時に購入するべきです。
熊は何時現れるかわかりません。
突然目の前に出現する熊!その時にザックを降ろして、蓋をあけて、中をごそごそかき回して、熊避けスプレーを取り出してぇ・・・なんてやっていては手遅れです。
ホルスターを使い、すぐに対応可能な状態にしておきましょう。戦争地帯を歩く、兵士の拳銃の携帯の仕方と一緒です。
ホルスターとスプレーの図

4.常に身近に置け!
「ホルスターがあるから、歩いているときは常に持っているよーん」では、油断しすぎです。寝るときにはどうしていますか?
以前、知床半島を縦走しているときに、夜中に熊がテントへ「こんにちわ」しに来たことがあります。
テントに体をこすりつけた後、そのまま去っていったようですが、もしもにそなえて枕元に熊避けスプレーを置いておくことをお勧めします。

5.スプレーボトルのデザインが悪いのよ・・・
これは、セーフティと並んで、スプレーに対する要望なんですが、今のスプレーボトルのデザインは黒い本体に、熊のおっかない顔のイラストが入っています。いったい何を考えているのでしょうか?なんで黒?何で熊の顔?疑問が尽きません。そういえば、この熊のイラストは北海道のおみやげ屋では定番の、熊注意ステッカーの熊の顔とそっくりです。
私なら、本体の色は黄色と黒の縞模様か、真っ赤。
熊の顔のイラストなんていらないから、射程距離と噴射可能時間の表示、風上に向けて使うな!という警告文、間違って浴びた場合の対処法などを今みたいに小さくじゃなくて、大きくデカデカと書いておきます。それほど取り扱いに注意が必要なものなのです。ボトルのデザインも「本気」でないといけません。

おわりに
本当は、私もこんな厄介で危険なものは携帯したくありません。しかし、ヒグマと人が同じエリアで活動する以上、熊の為にも皆さんに携帯してもらいたいと思っています。万が一貴方がなんの手だても打たずに熊に襲われたとしたら、その熊は後日射殺される運命になるでしょう。これは、人と熊の双方にとって非常に不幸なことです。

(追記:0211.11)この記事に対して、ぱっちまんさん、nishiharaさんからいろいろ情報を頂きました。下記に追記いたします。ありがとうございます。
ぱっちまんさんより、
スプレ−した後の液体なんですが時間が経つと熊はこれに反応して寄ってきては舐めているそうです。  そう、一転して熊の誘引剤となりますので、キャンプ地で撃退できたからといって安心しないようにしてください。
あと、クマ研の人に聞いたんですが彼らは先端恐怖症らしい・・・
長い棒や長い笹の竿(我々ならさしずめストックとかデポ旗でしょうか)を、彼らの鼻先に突きつけて退散するまで突きつけ続けるそうです。
ばったり会った時の偶然の産物らしいですが本人がフィールドや動物園で実験を行なった結果、一様に襲ってこれなかったらしい。
これが効くならスキーヤーにとって完璧なるノンリーサルウエポンではありませんか?
但し!!!私もやったことが無いのでこれで皆様の命が助かるかどうかは、一切責任持ちません。 ひとつの例として記載しておきます。
わたしからのお薦めの書籍は ”ベアアタックス 1&2” S・ヘレロ著 北海道大学図書刊行会です

nishiharaさんより、
僕も熊について、幾つか情報があるので追加したいと思います。情報源は次の2つの本です(自分の体験ではありません)。

1.門崎允昭・犬飼哲夫:『ヒグマ』(北海道新聞社)
2.姉崎等:『ヒグマに会ったらどうするか』(木楽舎)

・鈴について … 鈴の音に慣れてしまった熊には、全く効き目がない。鈴やラジオのように常に鳴り続けているものは、他の音を聞こえ難くしてしまうので良くない。約十分毎に大声を出したり、耳慣れない音を出す(例:ペットボトルをペコペコ鳴らす)のが良い。

・熊よけスプレー … 人間を襲う目的で突進してくる熊には熊よけスプレーは無意味だ。特に子連れの母熊は命懸けで突進してくるので、時には心臓をライフルで打ち抜いても突進が止まらない事がある。熊よけスプレーで撃退できる熊は、元から人間を襲うつもりのない熊と思われる。

・襲われた時は … 人間を(食い)殺す目的で襲ってきた場合は、戦う以外に手はない。じっとしていても殺されるだけだ。ただ、このようなケースは非常に稀で、数十年に一度しか起こらない。ほとんどの場合は、目を逸らさずにじっとしているか、ゆっくり後ずさりすれば回避できる。たとえ突進してきても、すぐには襲わない。万が一組み伏せられたら、道具で反撃した方がいい。道具がなければ、熊の口にこぶしを突っ込むというのが一番の反撃になる。

・熊の嫌うもの … 熊は蛇が嫌いらしく、蛇に似たもの(ロープなど)も極端に嫌う。ロープをゆらゆら動かすのが最も有効で、ヒグマに後をつけられたときはロープを引きずって歩くと熊は近寄ってこない。

> あと、クマ研の人に聞いたんですが彼らは先端恐怖症らしい・・・
> 長い棒や長い笹の竿(我々ならさしずめストックとかデポ旗でしょうか)を、彼らの鼻先に突きつけて退散するまで突きつけ続けるそうです。

先端恐怖症というのは、蛇嫌いと基本的に同じ原理だと思います。


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