2007年11月13日(火) 上ホロカメットク山下降ルンゼ雪崩レポート 十勝連峰の雪は不安定 入山者は注意を! (社)日本雪氷学会北海道支部 支部長 山田知充 11月13日、十勝連峰・上ホロカメットク山(1920m)の標高1819m付近で雪崩が発生し、スキーヤー1名を巻き込みながら標高差約203m、距離にして約444mを駆け下った。巻き込まれたスキーヤーは完全に埋没したものの、同行者の迅速な対応と北海道警察航空隊による救助活動によって一命をとりとめ、事なきを得た。 (財)日本気象協会北海道支社提供の気象情報によると、大雪山,十勝岳付近の標高1500m付近では20日午後から夕方にかけて気温が0℃前後まで上昇するものの、夜には寒気が入るため気温は急に低下し、22日まで気温は低いまま経過する見込みである。したがって,弱層を形成する雪質と気温の予報からみて、十勝連峰の他の斜面でも同じように積雪が不安定な状況がしばらく続く事が考えられる。 |
雪崩の範囲
幅約170mにわたって雪が崩れ、スキーヤー1名を巻き込みながら、急な狭い谷の中を標高差約203m、距離にして約444mを駆け下りった。 スキーヤーは埋没地点に全身埋没した。 |
雪崩発生地点(上ホロカメットク山・標高1819m付近)
雪崩落ちずに残された雪。ある特定の層(弱層)から上の雪だけが雪崩落ちてしまったことが分かる(撮影:雪氷災害調査チーム) |
■(社)日本雪氷学会北海道支部 雪氷災害調査チームの見解(2007.12.6):
雪崩の破断面(発生地点)にて、雪面から44cmの深さに「こしもざらめ」と「しもざらめ」からなる弱層が発見されたこと、また弱層上部には鉛筆が刺さらないほど硬い風成雪(微細な雪粒子が吹雪によって吹き溜まったもの)が存在していたことから、今回の雪崩は乾雪表層雪崩の一種である「ハードスラブ雪崩」であったと判断された。「ハードスラブ雪崩」は報告例が少なく、日本では1994年12月に十勝連峰の通称・OP尾根で発生した北海道大学ワンダーフォーゲル部の事故で報告されている程度である。共通点として、時期が積雪初期であること、しもざらめ系の弱層であること、積雪表層が硬いことが挙げられる。いずれにせよ、今回の調査結果から「このような硬い風成雪(ハードスラブ)であっても直下には弱層が存在しうる」ことが明瞭に示されたと言える。雪質としての「こしもざらめ」および「しもざらめ」は、積雪内に大きな温度勾配が生じたときに形成されるものである。今後の気象データの解析により、この弱層の形成過程および風成雪の堆積過程が明らかになるものと思われる。
なお、今回の調査に加わった遭難者の一人から「事故が起きた日(11/13)の積雪は調査日(11/17)の積雪ほど硬くはなかった」との証言が得られた。調査結果から、この雪崩における上載荷重のほとんどは風成雪(ウィンドスラブ)であったとみてよいだろう。風成雪は積雪粒子が極めて小さいため、粒子同士が多くの点でお互いに接触し焼結することで急速に強度が増加する。したがって、雪崩発生当時は堆積直後の風成雪でまだ柔らかく、その後急速に硬化した可能性がある。英語圏ではハード/ソフトスラブ雪崩などと用語を使い分けている一方、日本雪氷学会の雪崩分類にはない。過去の文献の調査によると日本でもハードスラブ雪崩と思われる雪崩事故がいくつか認められること(成瀬ほか,1995)、「ハードスラブ雪崩」という用語は既に一般的に使われ始めていることから、今後は日本でも関連用語の定義から検討していく必要があろう。
■雪氷災害調査チーム
(社)日本雪氷学会北海道支部では、社会貢献活動の一環として雪氷災害調査チームを2007年11月に結成した。道内で発生する雪氷災害現場に速やかに出動し、災害の実態やその原因を調査・把握し、求めに応じて災害への対処法やさらなる災害の防止軽減のための指導・助言・提言を行なう事がチームの目的。
今回のような山岳地帯での災害の場合を想定し、円滑で安全且つ素早い調査活動の実施を目指して、予め研究部門10名と山岳ガイド部門7名の計17名からなる専門チームを待機させている。
■ハードスラブ雪崩
ハードスラブ雪崩は、1994年12月に十勝連峰の通称・OP尾根で発生した北海道大学ワンダーフォーゲル部の事故で報告されている程度で、事例は非常に少ない。
<お問い合わせ> 雪氷災害調査チーム 樋口和生(山岳ガイド部門) E-mail : higuchi@npo-mash.org
NPO法人北海道山岳活動サポート内 TEL 011-615-3915 FAX 011-615-3914