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2007年4月15日(日)
針ノ木岳雪崩レポート

4月15日午前10時半ごろ、北アルプス針ノ木岳マヤクボ沢で雪崩が起き、山スキーをするために歩いて登っていた2人パーティーが巻き込まれた。県警ヘリコプターで救助された、東京都小金井市、会社員○○さん(34)は左足を骨折、東京都調布市、会社員男性(34)は左腕打撲の軽傷を負った。
大町署によると、雪崩は山頂に近い標高2,620メートル付近で発生し、幅約30メートル、長さ約200メートル。現場付近には30〜40センチの新雪が積もっていた。
軽傷の男性は「自分たちの足元から雪が切れ、表層雪崩が起きた。雪に埋もれたまま流されていたが、途中の段差でジャンプしたようになった際、空中に体が出てようやく息ができ、止まった時も雪の上に出た状態になった」と話した。現場近くにいた別のパーティーが雪崩に巻き込まれる2人を目撃し、携帯電話で警察に通報した。(以上、新聞報道からの抜粋。氏名伏せ)

この雪崩事故について、Aさん(仮名)より以下のようなメールを受け取りましたので、本人の了解を取り、氏名を伏せた上でこちらへ掲載いたします。







先週1週間休みとって白馬、穂高と滑ってきました。
15日に針ノ木岳のぼって雪崩事故に遭遇、救助にあたったのですが、そのときの状況があまりにも信じられないことが多かったので、内容を報告します。
白馬周辺は比較的簡単にシュートにドロップできるため多くのスキーヤー、ボーダーが結構急な斜面に入り込んでいます。
それだけに他人の起こした雪崩で巻き添えをくう確立も、ものすごく高くなっている気がします。
このような状況に対して少しでも警鐘をならすことができればと思っております。

以下は4月15日にあった針ノ木岳での雪崩事故の報告です。

4月14日
ガラガラ沢を滑った山岳ガイドのB、C、私の3名は帰りがけにDさんより、その日に針ノ木岳で、針ノ木峠を登る途中、先行者のボーダーが起こした雪崩に巻きこまれ、2名が200メートルほど流されたという話を伺う。うち1名はNAXOのビンディングが歩行モードであったことから板からちぎられてしまったらしい。当日は結構降雪も多く、おそらく明日は20センチ〜多いところで40センチ以上の積雪ではないかとのこと。

4月15日
天気は快晴となり、コンディションも非常によいことが期待されるなか、白馬より針ノ木岳に向かう。7時頃に扇沢を到着、準備をすまし、7時半すぎにスタートする。天気もよく、下部の積雪はおもったより少ない。すでに先行パーティーが何組か入っているなかを我々も後に続く。途中一組のパーティーを追い抜き、そこそこのペースで上がっていった。沢の左右の状態をみると、樹木から落ちた雪による崩れたあとが多少あるものの大きな点発生、面発生雪崩とも見当たらなかった。

9時15分ころ、マヤクボ沢の出合いよりちょっと下のところで休憩する。ピットをチェックすると10センチ程度の積雪の下にいくつかの層ができている。標高があがるにしたがって積雪も徐々に増えてきていおり、この場所から昨日の雪崩跡と思われるデブリ、破断面を確認することができた。

休憩後、再び上り返したが、私のカカトの皮が向けてしまってきたため、マヤクボ沢の出合いすぐであらためて、荷物を降ろし足に絆創膏を貼る。このとき、ここがその20分後くらいに雪崩の走路となるとは思いもしなかった。そして一度追い抜いたツボ足アイゼンで登る単独のボーダーに追い抜かれる。下部と違い、積雪も増えてきているためかなり苦戦して歩いているようだ。上部には10名以上の人がすでにマヤクボ沢の途中まで登っているのが見える。

再び体制を整えて上り始める。ガイドのBは私より50メートルくらい上をいき、Cは30メートルくらい先行している。足の痛みもおさまったのでガシガシとのぼり、先行するボーダー、Y氏を抜いていく。斜度もだんだんと傾斜をましてきたが、Bのラインは他のパーティーがつけたラインよりもかなり直登気味で結構ハード。上にあるテラス上のところをスバリ岳によっていく感じに右方向に上がっていく。

テラスまであと20メートルくらいのところまできたところで、Bが突然こっちにむかって叫びだす。最初は能天気に「ガンバレ〜!」といってるのかと思ったが、どうも叫ぶ感じが違う。で、後ろ振り返ると30メートルくらい後ろ上方のテラスから猛烈な勢いで雪が噴出している!!とにかく巻きこまれないように猛烈にダッシュし、改めて振り向くと雪崩はまだ続いており、なんと一緒に人が猛烈な勢いで転がっている。後にいるBがいることも確認でき、出合い付近にいるパーティーが気づいているかわからないのでとにかく、大きな声で「雪崩!逃げろ!」と叫ぶ。

端によってとにかくシールをはずすことにするが自分たちの場所もテラスから上が見えず恐ろしいばかりで、手が震えてなかなかうまく作業がすすまない。そんななか速攻でシールをはずしたBが、私より100メートル位下のところで巻き込まれた雪崩から抜け出せた人のところへいき、他にメンバーがいないかを確認、一人いることがわかりただちに捜索に入り、デブリのなかをビーコンで探知しながら下っていった。

なんとかシールを片付け、私も巻き込まれた人のところにいく。怪我の様子を聞くと、腕を折っているかもしれないがちゃんと動けるとのこと。彼はとにかく一緒にいたメンバーのことが心配している。興奮気味に山頂付近をトラバースしているときに自分たちで弱層を踏み抜いてしまい、一気に流されたと離してくれた。(ちなみにスキーヤーだがスノーシューを利用、そのときはツボ足だったよう)。針ノ木峠方面からトラバース気味に昨日雪崩がおきた場所と同じ向きを歩き、山頂近くの吹き溜まりで崩れたようである。

Bより下でもう1名が発見されたという無線が入る。そのことを伝えると当人かどうか名前を確認してください、と頼まれ、無線で呼びかけるがちょうど下のほうでは電波が届かない位置にいってしまったらしく返事がない。

ちょうどそのときCも準備ができてこちらに駆けつけてきたので彼のことをまかせて自分も下に下りる。デブリのほぼ末端付近で、もう一人のメンバーが倒れおり、横にB、そして休憩してきた人や下から登ってきた人が10人以上はいる。

そのとき、我々より上にいて、降りてきた人がもう1名巻き込まれたのをみたのだがその人は大丈夫か?と声をかけられる。先ほど追い抜いたツボ足のボーダーのことらしい。大きな声でもう1名巻き込まれたらしいか確認できてるかどうか叫ぶと、背後の休憩していたパーティーのなかの一人の男が「おいおい、どんどん時間たっちゃうよ〜!!」と大きな声で叫んだ。

は〜っ???捜索にも加わらずそのセリフをはくこいつはいったい何考えてるんだ???
そんなこと怒っていてもしかたないのだが、幸いそのボーダーはすぐに確認できたので一安心。ボトムで見つかった遭難者が自分のほかにもう1名(上ですでに発見されている人)
がいるので探してほしいとお願いしたが、彼はビーコンをもってなかったらしく、遭難者が自分のビーコンを貸したというのだから、もしこのボーダーが完全埋没してたら発見することは不可能だったことだろう。

下で発見された人は左足を解放骨折しているらしく、痛みがひどく動かすことができない。Bは彼のすぐ下の場所を平らにし、ザックを2つひいてそこに動かし。ツェルトをまいて救助をまてる状態にする。名前を確認し、上の人を同じパーティーのメンバーであったことを確認、すぐに無線でしらせる。

救助要請をしたいのだが沢の下のほうであるため、電話や無線が通じず、まだ上部にいるCに電話がつながるか試してもらうがこれもうまくいかない。Bの知り合いのガイドKさんが同じく救助作業をてつだっていたので、彼が現場にいた知り合いに頼んで下山してもらい救助要請をお願いした。

周りにいく人の多くがその時点で下山していくなか、後から上ってきて、さらに登山を継続していく人もいる。そこからが自分には信じられないようなことが続発する。

まず、しばらくたつと登ってきた女性が

「先に上に上がっている者がおちてるもの回収するといってるんですが」

「あ、ありがとうございます。」

「で、板とゴーグルどちらがいいですか?」

?????「あ、あの両方お願いします。」

ちなみに私は救助に参加しているだけで遭難者の知り合いでも何でもないが、こういう現場にいたら当然できる限りの協力するのは当たり前と思っていたのでこの質問にはなんとも???であった。

その後、上部の様子を伺いながら救助のヘリをまつ。しばらくするとなんと上部の破断面直下のすぐ横を滑ってる人がいるではないか!!また、我々のちょっと上でも雪崩があった斜面と同じ向きの場所を平然とすべりこむ人がおり、下から「出ろ〜!危ない!」と叫びまくる。果たしてこと人たちはもう自分たちには雪崩がおきない、また下のほうにいる人たちのこと、そして自分自身がいかに危険なことをしているのかということに気づいてないんだろうか???

さらに、なんと回収するといった板を上から流すヤツがいたこと!!!これが故意にやったとしたらこれはもう殺人未遂ですよ。けが人が動かせない状態にあるなか、流れてくる板を数名の人がいざとなったら壁になるべく、けが人の前でヒヤヒヤしてみている気持ちといったら、、、、


そんな驚愕するようなことを目の当たりにしながら、12時15分ころやっと県警のヘリが到着。けが人2名を載せて飛び立っていきました。彼らのうちの元気なほうの人はしきりにまわりの人に頭をさげ、「僕らのために本当に申し訳ありません」とあやまりっぱなしでした。ヘリは板とかは運んでくれないので1本だけあった板をBが担ぎ、我々も下山しました。

夕方のニュースで幅30メートル長さ200メートルの雪崩があったと報道され、翌日の新聞にもそのようにでたようですが、実際は標高差500メートル以上、長さ1000メートル以上あった非常に大規模なものでした。発生原因も人為的であれば、その後の入山者の行動も大変危険なことがおおく、現在のBCブームについて深く考えさせられます。

しかも、この事故についてネット上では「破断面を確認しにいったが途中これまでにないワッフ音をきいて滑りどころじゃなかった」「回収物を警察に届けた、取得者の権利は放棄したけどサングラスは使えたかな」とか「けがした人にはわるいけど滑りのほうはホント最高でした!」とか想像を絶する会話が流れていたりと、山はディズニーランド、雪崩事故はそのなかのアトラクション程度にしか思ってない人がいるという事実。(ちなみにワッフ音を聞いたという人はその後自分は下に人がいないのを確認しているので悪いとはおもっていない、というような主旨の発言をしているようだが、もし再び自分たちが雪崩に巻き込まれたときのこと、その後の捜索活動に入るひとの危険、周囲への迷惑までも考えないんでしょうかね?)

救助にあたられた方、本当にお疲れ様でした。また、怪我をされた2名の方は無事でなによりです。はやくご回復されることを願っております。

今回の体験によって、いかに自分の知識、行動が未熟なものであり、とっさの時に動くことの難しさや、山や雪への観察眼がたりないかを痛感させられました。同時にBの行動のひとつひとつを実際にみていて、講習会や本100冊読む以上の経験ができたと思います。
この報告が何かに役に立てればと願っております。


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