冬山におけるGPSの活用について

第一章 GPSの原理と問題点
第二章 冬山でのGPS運用法
第三章 どれを買えばいいの?〜将来への
    希望
写真 1 写真 2

第一章 GPSの原理と問題点

「ハンディGPSをなんとか冬山に活用できないか?」GPSを知った私は、5年ほど前から試行錯誤してきました。
冬山では現在位置の把握が困難になる事がよくあります。コンパスと地図を持っていても、現在位置が特定できないとあまり意味がありません。
ルート確保にデポ旗はとても有効ですが、往復する場合に限られます。縦走には使えませんし、あまり長い距離を往復する場合には、デポ旗がかさばっていけません。
それに、スキーヤーにとってはデポ旗はとても”じゃま”です。
登るときもうっとおしいのですが、下りも回収しながら滑降するので、とても滑りが制限されます。

そこで、登場するのがハンディGPSです(写真1参照)。
GPSとは、「グローバル・ポジショニング・システム」の略称です。
地球の周りを回っている24個の衛星からの電波を受けて、三角交差法により現在位置を計算します。最低3つの衛星を補足すると経度と緯度が計算でき、 4つの衛星を補足できれば3次元測位によって高度まで算出できます。
そのGPSも実用的になったのはここ2〜3年のことです。
それ以前のハンディGPSは、アンテナの感度がとっても低くて木立の下で衛星の補足ができなかったり、補足しても位置の割り出し時間が長かったりして、夏山やレジャーでの使用はともかく、冬山ではとても不便でした。
しかし、やっとGPSも実用的になってきました。私の使用しているGARMIN12XL程度の性能を有していれば、十分に活用できます。ただし、GPSも万能ではありません。以下に注意点を挙げます。

問題点
1.バッテリーが不安(02.01.24追記:ニッケル水素電池の使用で、かなり解決)
2.液晶が凍る
3.誤差がある
4.高度・速度はあてにならん
5.操作性が悪い
6.高価
7.いろいろめんどうくさい(^_^;)

1.バッテリーが不安
アルカリ電池では、低温下の放電性能の低下が避けられません。厳冬期の低温下ではカタログ値の1/3以下に使用時間が低下します。これが、ネックでした。
しかし、リチウムイオン電池の登場で状況は改善されつつあります。
低温下でもカタログ値の5割〜7割程度まで利用できます。欠点は高価なことです。
(02.01.24追記:ニッケル水素電池の使用により、低温下でアルカリ電池の二倍程度使用時間が延びました。冬山でも電源を入れっぱなしで6時間程度の日帰りツアーで十分使用できます。)
いずれにせよGPS本体は懐に入れるなどして保温しておいた方がよいでしょう(それでも不安ですが)。
私は、いつも胸ポケットにGPSと携帯電話とおにぎりを入れています(もっと、胸ポケットが欲しい!)、人体は貴重な熱源です。何れにせよ予備電池は必携です。

2.液晶が凍る
表示部が液晶なので、へたをすると凍ります。凍らなくてもかなり表示反応速度が低下します。ただし、-15度程度でも使用できたことがあります(うっすらと見える)。これは、デジタル・アバランチビーコンなどを含むすべての山岳電子用品の問題点です。
これは、仕方ないですね。バッテリーと同じ対策をとりましょう。

3.誤差
GPSには誤差があります。
装置の性能としては非常に高い精度を持っているのですが、米国の軍事衛星を使わせてもらっている宿命上、人為的に25〜100メートル程度の誤差が与えられています(これをSAと呼びます)。
実におもしろくない話ですが、たしかにテポドンとかにGPSを積まれて、ピンポイント攻撃などを受けてはかなわないので、仕方ないのかもしれません。
ですから、戦争などが勃発すると米国の判断でさらに1〜2キロまで誤差を拡大されることがあります。
最近では、湾岸戦争時にそのようなことがあったと聞いています(すみません、うろ覚えです)。
誤差修正情報をFMでキャッチするとか、固定基地局を置いて誤差を修正するとか、解決方法はいくつかあるのですが、いずれも冬山では現実的ではありません。
どうしましょうか。あきらめましょう。幸い冬山は夏山と比較するとルート取りはそれほどシビアでなくても良いので、なんとかなるでしょう。ただし、常に誤差のことを頭の片隅に入れておきましょう。
(02.01.24追記:『選択的利用性』(SA)と呼ばれる措置のせいで、GPS信号には意図的なスクランブルがかけられ、民間が利用できるGPSの精度は全世界的に落とされていた。しかし、クリントン前米大統領の命令により、この措置は2000年5月以降、解除されている。SAに代わって登場したのが選択的拒絶という措置であり、これによって米軍は、GPSの精度を低下させようと思った場合、ターゲットの地域を詳しく特定することができる。)

4.高度・速度はあてにならん
GPSの高度表示は、精度が低いです。
これは、注意して下さい。衛星配置状況次第では、3つの衛星しか補足できなくて2次元測位しかできないこともあります。また、GPSは原理上3次元精度が低く、高度は水平方向と比較して2倍以上の誤差となります。気圧高度計も併用したほうが良いでしょう。

5.操作性が悪い
これは、私の自慢のGPS12XLにも当てはまることなんですが、直感的な操作はまず無理です。
毎シーズン初めには、使い方の復習をしなくてはならないほどです(私の頭が悪いのか)。
是非とも設計者には、D.Aノーマンの本でも読んで認知科学を勉強してもらいたい!
人間工学も勉強してもらいたい。ボタンのサイズがどれも小さくて、グローブ越しの操作は大変困難です。

6.高価
高価です。少なくとも私にとっては。でも、最近は安いのもでてきましたね。

7.いろいろめんどうくさい
なにがめんどうくさいって、緯度経度から地図上の位置を割り出したり、事前にウエイポイントを入力するのがめんどうです。
カーナビのように画面に山の地図と現在位置が表示されると快適なのですが、ハンディGPSでは、まだそこまで技術が進歩していません。
(02.01.24追記:この点については、カシミールというフリーソフトとGPSを連動させることにより、かなり使いやすさが向上しました。しかし、カシミールが使いやすいかというと、まだ問題はあります。)

第二章 冬山でのGPS運用法

GPSはそれだけで位置、時刻(これは非常に正確!)が分かるのですが、停止中には進行中の方向を指し示してくれません。
移動中でも徒歩スピード程度では、誤差影響が大きいので進行方位表示を鵜呑みにすることは危険です。従って、コンパスや高度計、そして地図との組み合わせが必要になります。ですから、緯度経度が分かるようにグリッドを入れた地図(正確な現在位置の確認用)、コンパス、高度計はかならず携帯しましょう。
(現在位置を知るための便利な道具として、マップポインターという製品もあります。これは、地図に重ねると現在位置が読みとれる定規で、(株)測研が発売しています。定価は680円)

さて、GPSで現在の緯度経度を把握して、地図上で現在位置を確認するだけでも良いのですが、せっかくGPSにはいろいろな機能があるのですから、そこから先のナビゲーションにも積極的に活用してみましょう。GARMIN社の各GPS、エンペックスのGPS38EXを例にとって、主な運用法を紹介します。

運用前には、以下のような事前準備が必要です。
1.いくつかのウエイポイント(出発地点、経由地点、付近の山頂など)をGPSへ入力しておく(一番面倒くさい)。
2.過去のトラックログを消去しておく(トラックバック機能を使用する時のことを考えて)
3.マップ画面の設定を磁北が上の表示にしておく(コンパスでのナビゲーションを楽にするため)。

では、具体的にGPSのナビゲーション機能を生かした運用法を紹介します。

1.ルートナビゲーションを使う
ウエイポイントをいくつか設定し、それらを関連づけてルートを設定するものです。ナビゲーションを受けているときにはとても快適でしょうが、事前の準備が面倒なので私はほとんど使用していません。決まったルートを定期的に利用する場合(商業ツアーとか)などには入力の手間が一度ですむので便利かもしれません。

2.ウエイポイントに対するGOTO機能を使う
これは、あらかじめ入力してあるウエイポイントリストから、目的のウエイポイントを選択すると現在地からの方位、距離などを表示してくれるという機能を使った運用法です。あとはコンパスを併用し、時々GPSのスイッチを入れてコースの確認をしながら進むだけです。一般的には一番多い使用法になるかもしれません。ただし、的確で適切なウエイポイントの入力が前提条件です。
同じコースを往復するのなら、往路の要所要所でウエイポイントを登録しておくと良いでしょう。

3.トラックプロット(行動の軌跡)を参照する
私のもっぱら緊急時の運用法です。
予定されたコースが何らかの事情で通れずに、コース上のウエイポイントがGOTO機能で利用できない状況になったり、単にさぼってウエイポイントを入れていなかったり、悪天候で細かいスイッチ操作が困難になったり、いちいち測位をしている余裕がなくなるような場合には、私はGPSのスイッチを入れっぱなしにしてトラックプロットを参照する方法を用いています。これだと、操作はGPSのスイッチを入れてマップ画面にトラックプロットを表示させるだけです。
この場合、周辺のウエイポイントから相対的な現在位置を把握し(これも無理なら、一度じっくり腰を落ち着けて緯度経度から地図上の位置を割り出しましょう)、さらにプロットの軌跡から自分のコースが正しいかどうかを判断します。この運用法では、最悪でもGPSのスイッチを入れた地点までは確実に同じルートで戻ることができる利点もあります。ただし、連続使用による電池の消耗に注意して下さい。危機を脱したら直ちにスイッチを切って、バッテリーを温存することをお薦めします。
この運用法では、行動中にずっとGPSのアンテナを天空へ向けていないといけないので、外部アンテナが必要になります。私は、GPSが冷えないように胸ポケットに入れ、そこからザックのトップに取り付けた外部アンテナへケーブルをのばして使用しています(写真2参照)。

ちなみに理想的な運用法は、出発時からずっとGPSのスイッチを入れておくことでしょう。そうすればトラックバック機能により、往路と同じコースで確実に出発地点へ戻ることが出来ますし、山での行動を完全な形で記録することもできます。当初はその運用法を試すために外部アンテナを購入しました。しかし、一度厳冬期の旭岳で試してみて、あまりにもバッテリーの消耗が激しいことがわかり、厳冬期のこの運用法は断念しています。(02.01.24追記:ニッケル水素電池の使用により、上記の運用が可能になりました。冬山でも電源を入れっぱなしで6時間程度の日帰りツアーなら大丈夫です。縦走でも、リチウムイオン電池を使用すればかなりいけるでしょう。)

第三章 どれを買えば良いのか?〜将来への希望

実際にGPSの購入を考えると、どの機種にすればよいのか迷いますね。
私はGARMIN社のGPS12XL を選択しました。理由は以下の通りです。

1.防水性がある。
一応、日常生活防水です。水に落とすことはまれだと思いますが、冬期間の使用ではなにかと濡れることも多いものです。特に、私のように胸ポケットにしまっていると汗などの水蒸気でかなり濡れます。

2.縦型である
同じガーミンでも車載を考慮した横型のGPS II,IIIシリーズがあります。縦型としても使用できますが、なぜか断面形状がおむすび型なんです(身につけると痛そう)。
歩行者の携帯に向いているのは縦型です。胸ポケットへの収まりも良好です。

3.外部アンテナが使用できる
これは、第二章を参照。

4.情報が豊富
恐らくGPSの中では、GARMINの製品は一番情報が豊富だと思います。特にNIFTYSERVE/FGPSでは、GARMINの専用会議室まで設けられている程です。まだ、技術的に過渡期にある製品の常で、情報収集が重要ですね。

5.安い
海外から輸入すると、かなり安価になります。

6.データの汎用性が高い
コンピュータなどをデータロガーとして使用したり、カーナビのようなものを構築することが容易です。データのやりとりには、NMEA0183というデータ形式が使われますが、エンペックスのGPSなどでは日本語化に伴う規格の微妙な変更によりトラブルが起こるようです(私は、過去にエンペックスのGPS38Jでやられました(泣))。

将来への希望

私は過去にLibrettoにGPSを接続し、画面に地図を表示して携帯カーナビのようなものの構築を試したことがあります。
しかし、はやりコンピュータのハードが脆弱なので(バッテリーの問題と、防水の問題と、液晶が低温下で使用できなくなる問題と、キーボードを手袋越しに操作する問題と・・とにかく問題山積み)、早々に冬山での使用をあきらめました。しかし、この状況も時間の問題でしょう。
今、注目しているのはパームパイロットやWindows CE機にGPSを接続する試みです。
これですと、かなりトラブルフリーな環境が構築できそうです。
特にパームは耐久性が高そうだし、冬山行動中の貴重な熱空間”胸ポケット”に納まるので、実用になりそうです。

また、エプソン・ロカティオのようなマップを内蔵できる新世代GPSも出てきました(これは、まだ使い物になりそうもありませんが)。マップフリー、コンパスフリーの山行ができる時代がもうそこまで来ているのかもしれません。
(そのような時代が来ても、もちろん予備装備としてマップとコンパスは持っていく必要があるでしょうけどね。(^_^;))

(01.09.18追記:ここでの記述は、コンピュータを使わず、GPS単体で使用する方のための内容になってしまいました。今ではGPSはパソコンと接続して使うのが常識となっています。何も言わずにカシミール3DをダウンロードしてGPSと組み合わせてみてください・・・革命的に便利です。関連情報はLINKのページにあるウエブサイトに沢山掲載されています(サトシンの北海道の山スキーとか、山へ行こう。とか)。GPS本体については、今のところeTrexVentureがお勧めです。)

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