三峰山雪崩についての考察
2004年1月22日(木)
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adachiさんから、2004年1月10日に三峰山で発生した雪崩について、何故、雪崩れたか、また、その予見、更に、対処と回避についての考察をいただきましたので、こちらに掲載します。

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2004年1月10日(土) 三峰山スキーツアー

踏みしめる雪の感じもとても嫌な感じ。雪崩れそうな予感がする。
ところが、三峰山沢に入る手前で弱層試験をすると、まったく弱層が見られない。

どうにも腑に落ちないまま沢へエントリーしてみると・・先行者の足下から切れて表層20〜30センチの雪面が流れていった。沢の中の雪質はとても不安定な事が分かった。
そこで、あらかじめやばい雪を落としきろうと思い、旦那はエントリー地点より下の滑降ラインを衝撃を与えながら滑って横切った。これなら雪崩れても雪崩の外へ逃げて避けられると思ったのだが・・
横切り終わる頃に、「ズシン」と鈍い音がして旦那の立っている場所を含む周囲の雪面が流れ始めた。思ったよりも広範囲な雪崩を誘発してしまったのだ。


雪崩エアバックを背負っていて良かった。雪崩に流されている間に積極的にセルフレスキューを行う余地を与えてくれるというのは心強い。そうでなければ、無力感に打ちのめされていたと思う。

今回の反省点は、言うまでもなく雪崩に遭遇したことだ。
1.弱層試験の実施場所
2.雪崩を誘発させる行為の是非
3.雪崩発生後のリカバリー
これらについて、慎重に考えていく必要がある。
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地形などを含めて考えると、今回の雪崩は沢中に堆積した風成雪の崩壊のように感じます。
(その点では、滑走ラインをわずかに側面に移しただけでも、起こらなかった雪崩なのかも知れません。)
上部の積雪と下層の雪の間には、降霜か霰状の雪による「弱層」があったのでしょう、きっと。

旦那 さんも書いているとおり、テスト地点の選定の問題があります。
つまり、上の条件では、沢に飛び込むまでは「弱層」は確認しずらいのです
ね。
特に、風当たりの強弱によって「弱層」が飛ばされたり不鮮明になったりすることは、常に頭に有ることですから。
(わたしは、三段山クラブが、雪層の安定性に疑義のあるときには尾根上だけでなく、エントリーする斜面にも立ち入ってテストしていることを承知しています。)
しかし今回は、先に小雪崩を起こしており、「沢の中の雪質はとても不安定」なことはテストによらずとも分っていたこと。
それだから、雪崩を人為誘発させようとの行動がとられた訳です。
(先に断っておきますが、このような行為は誰でも彼でもとることができるものでは有りません。というか、リスク・ダメージへの想像力を欠く人間には許されないものです。)

一般論として、雪崩誘発は危険なので試みられるべきではないでしょう。
実際、同様な動機から試みて(自分が起こした雪崩からは上手く離脱できる・
・・と考えがち)、飲み込まれた生還者の記録はヨーロッパでいくつか有ります。
(生還しなかった人の記録は無い(^_^;))

ポイントの一つは、雪崩のイメージとして、通過する自分の足元より後方で破断するとのイメージが有るものと思われます。
が、実際の現象としては、荷重点を中心としたサークルで初期の破断が起こるようなのです。
サークルが小さければ、スピードに乗っての脱出も有り得そうですが、大きくなると飲み込まれることも出てきます。また、破断の影響の伝達速度は、画像で見ていると30m/s(時速100km以上)を上回るようです。(この部分のデータは未見ですが。
いや、そもそも「伝達」という概念は不適当、広域同時発生と言うべきなのかも知れません。)

しかしこれも、ケースバイケース。
5・6回もやってみると、巻き込まれない要領(許容範囲)が分ってくるかも知れません。
旦那 さんの場合、割とすぐに立木につかまったりしているので、スピードが不足していたのかも知れません。
これも画像からの読み取りなのですが、滑走面よりも下層での破断の場合は、上面の雪はタイムラグを伴って乱れるため、滑走者が脱出する余地が残されるようです。今回は上層そのものが流れたので、すぐに捕まってしまったという面もありそうです・・・。

ところで、話は戻りますが、手記の冒頭、「踏みしめる雪の感じもとても嫌な感じ。雪崩れそうな予感がする」について、どう考えるといいでしょう。
単細胞のあたしですと、弱層が壊れる感触を足裏で得ていたのか・・・、などとも思いますが。(いや、実際、歩いていて色々と感ずるのですよね、雪の表層からやや深部の様相まで、あくまでもなんとなくという次元なんですが。)
普通の山登りですと、わざわざヤバイ斜面には近づきませんから、こんな感触はあっても無くても構わないでしょう。でも、三段山クラブみたいに、積極的にそういう斜面を追う人間には、これはかなり重視すべき情報だと思います。

「リカバリ」ということでは、雪崩エアバックのことだけ書いておきます。(ビクテム自身の挙動から、周囲の観察者の対応、また、事後の行動、心理と行動のギャップなど広すぎるので)
メンタルの効用は旦那様も書いていますが、実効性としては日本では過大な期待はもう少し控えても良いだろうと思っています。
エアバックによって、雪崩流に飲み込まれてもみくしゃになり、最後は埋められてしまうという最悪のシナリオは回避できる可能性が生れました。
が、雪崩が停止するまでは遭難者は雪崩に近い速度で流れ落ちていくと考えられます。その途中での立木への衝突はかなり厄介な問題です。雪崩での死者のいくつかは、明らかに立木との衝突によって大きなダメージを受けているからです。立木の多い日本の環境では、この問題は忘れることが出来ないでしょう。

ひとこと申し添えておきますと、今回の旦那様の行動では、エアバックの利用の典型的なケースが試されたと思います。
なんだかイヤだな・・・でも、はっきりしないな・・・・とりあへず行ってみよう・・
・・あ、崩れた、・・おお・・流れる・・・・木につかまる・・・ダメだ・・・トリガーだ・・どこだ????・・・あ、止まった・・・。
正直に言うと、雪崩が停止せず、そのまま流れて欲しかったと思うのです(^^ゞ。
「いく」と思って突っ込むのはエアバックの使い方としては不適です。OKっぽいんだけど、なんだかイヤだ・・といった程度の時が、その本領発揮でしょう。
トリガー位置も調整しなおしたとのこと、これで一命拾い物ならば以って瞑すべしですね。

adachi


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