2001.10.19(金)
冬山ビデオのコツ -撮影地獄編- |
うれしいことに最近、バックカントリースキーの自主制作ビデオを作りたいという方が増えてきました。 私自身まだ試行錯誤している状況ですが、3シーズンの間に少しずつノウハウを得てきたので、できるだけコツを紹介していきたいと思います。まずは撮影編です。 |
私の冬山撮影スタイルは、防水ケースに入れたDVカメラ(写真1)をたすきがけにして携行し、ツアーの最中にちょくちょく同行者を撮影するというものです。撮影のためのツアーではありませんから、撮影に手間はかけられません。 1シーン10秒以上撮るなとか、やたらパンやズームを使うなとか、そーゆー一般的な撮影に関する注意点は飛ばします。 カメラ機材の工夫については、道具箱のDTVを見てください。 ここでは、雪山に特化した撮影時のコツを詳しく伝授いたします。 (写真1) ●撮る前から勝負は始まっている! 撮影前にいくつか点検しておくことがあります。 1.バッテリー: フィールドではバッテリーの交換なんてできませんので、もちろん前日に満充電です。バッテリー自体の寿命は私の場合で2シーズンでした(意外と短い)。 2.乾燥剤: これは、バッテリーと同じくらい大事です。カメラの防水ケースに入れておく乾燥剤は、いつもチェックしましょう。寿命が切れていると、てきめんにレンズが曇ります。 3.DVテープ: DTVを前提にするならDVテープにタイムコード焼きをやっておきましょう。 これは、少し説明が必要ですね。DVでは、映像と一緒にタイムコードというものを記録しています。 撮影するときに、一瞬でも非録画部を作ってしまうと、そこでタイムコードが「00:00:00.00」に戻ってしまいます。そうなると、タイムコードを利用してビデオをコンピュータに取り込む作業(バッチ処理という)をする際に支障をきたしていまいます。 ですから、撮影前に一旦テープ全域になにかを録画しておくと安心です。 カメラのレンズにカバーをかけたまま録画するか、DVデッキでグレー画面を録画しておくと良いでしょう。また、撮影の際には最初の数秒に捨てカットを入れておかないと、バッチ処理で取り込む際に最初のカットがうまく取り込めない事があります。 ここら辺はDTVならではの面倒な部分ですが、大事なことなのでこまめに実践しましょう。 また、シーズン初めにはビデオカメラのヘッドクリーニングをしておきましょう。 ●レンズが命!拭いて拭いてふきまくれ!! レンズに雪がつく・・・これは冬山撮影時には避けて通れない問題です。 基本的に、ケースを外気温と同じにしておけば、雪は溶けずにレンズの上に乗っているだけの筈です。が、なぜかよくレンズに雪がくっつきます。風が吹けば飛びそうなものなのに、雪が風に乗ってますますレンズにくっつきます。 ですから、レンズは風下へ向けて撮影を行うのが鉄則です。 逆光がどうの、構図がどうの言っていられません。雪が付くとなにも見えなくなるのですから。 レンズを拭うために、カメラ専用のウエスを使ったり、エアで吹き飛ばす道具を試したりしましたが、結局オーバーミトンでレンズを拭うことで落ち着きました。 オーバーミトンに雪が付いていてはだめですので、オーバーミトンの雪を払ってからレンズを拭く・・構えている間にまたレンズに雪が付くのでオーバーミトンの雪を払ってから・・・・ これをひたすら繰り返すのです(写真2)。 (写真2) その間に、息がレンズにかかると大変です。もし息がレンズに届いたら、曇ったり、最悪雪が溶けた後で瞬間的に氷結します。ですからなるべく息を止めながらこの作業を続けます。我慢できなくなると、天を仰いで息を上へ吐き出します。 厳冬期の撮影は、この作業が一番苦しいのです。その点、春スキーは撮影者にとって天国です。レンズに雪が付かないなんて・・・あんなに気楽なものはありません。 ちなみに、ただ構えているだけでもレンズに雪が付くのに、転んだりしたら大変です。 転んで雪まみれになったカメラの雪を除去しているあいだにも、同行者は寒さに震えながら待っているのです。カメラマンは転んではいけません。 どうしても雪が除去しきれないときには、仕方ないのでズームで撮りましょう。焦点距離の関係で雪が目立たなくなります。 ●息を止めて、心臓も止めろ! これって、射撃競技の時によく言われる科白です。照準がブレないようするためですね。さすがに、心臓を止めると死んでしまいますが、息なら10秒くらい止められます。 手持ちのビデオ撮影でも射撃競技と同じようなことが要求されます。カメラに手ぶれ補正機能がついていても、大きな揺れは当然ブレとなってしまいます。 登高中、あるいは滑降後で心拍数の上がった状態を速やかに落ち着かせ、なるべく息を止めて撮影します。息を止めるのは、レンズの曇りや吐いた息の写り込みを防ぐためです。 これって、結構きついです。皆さんと一緒にツアーをしているとき、私が撮影前に深呼吸しているのを見ることがあると思いますが、その時には必至に心拍数を押さえ、息を肺一杯に吸い込んでいるのです。 どうしても息をするときには、口をすぼめて下へ息を吐きます。 今回のビデオでは、どうしてもおさまらない心臓の動悸のせいでカメラがブレてしまい、最高のショットが何カットか使えませんでした・・・つくづく残念です。己の未熟さに地団駄を踏みます。 あとは、とにかく気合いです。ヘロヘロニヤニヤしながら撮った画は、確実にブレます。 ●三脚は必要か? 必要。であるべきなんですが、私は持っていけません。 一人で風景を取ったり、撮影がメインのツアーなら可能ですが、所詮ツアーのついでの撮影です。 三脚を設置している間に、皆さんどっかへ滑っていってしまいます。それに、良い三脚は重たいし・・・ そこで、どうするか・・・ 滑りを撮るなら、あまりロングで狙わない限り手持ちで十分なんですが、問題は風景です。パンとかしないで固定で撮ると、ブレがとても気になります。 そこで、いくつかの技を使います。 1.ストックに載せる うまく載せると一脚代わりになりますが、かなり慣れが必要です(写真3)。不慣れなままやると失敗の可能性大です。そのかわり、慣れるとパンやズームが行えるようになります。 (写真3)(写真4) 2.一脚を冬用に改造する ストックのバケットを一脚に取り付けて、雪上用一脚を制作されている方が居ます(写真4)。バケットのおかげで雪に沈みません。雲台も工夫されていて、水平・垂直方向へ自由にパンできるようになっています。 3.そこにあるものを適当に三脚代わりにする 車のルーフ、ドア、木、岩、標識、なんでも使います。山頂からの風景では、よく標識の上にカメラを置いて撮りました。 4.雪で三脚を作る。 低くても良いなら、雪を積んで三脚にします。私はこれで単独行の時に自分の滑る姿を撮りました。 まあ、いつか三脚を使えるような大名撮影をしてみたいものです。 ●合 図 これ、結構重要です。 撮影ポイントについたら、撮影準備をします。大抵レンズを激しく拭きながら、息を整えたりしているのですが、油断していると滑降者は準備が完了したと思って滑ってきてしまいます。 明確に合図を決めておいた方が良いです。 声はあてになりません。ちょっと風が強いと全然聞こえませんから。 手をあげて合図するのが一般的です。 なかなか合図がなくても、滑降者は我慢してあげてください。その時カメラマンは必死でレンズの雪を除去しているのです。 合図を確認したあと、滑降者はもう一呼吸待ってあげてから滑り出しましょう(カメラマンが合図した手を下ろして体制を整える時間の為です)。 合図のために、私は少しでも目立つようにグローブを赤いものにしています。 もっと長距離になると、無線機が欲しいところですが・・・(^_^) ちなみに、ビデオカメラは電源をオンにしてもすぐには撮影できません(旦那のカメラで約6秒)。 うっかりして、合図してから電源入れたりしたら、もう手遅れです。 ●ファインダーをあてにするな! そうなんですよ。ファインダーって、暖かいところでのみ機能するもので、厳冬期にはものすごく暗くなるんです。 液晶モニター?そんなものはまったく写らなくなるか、やたら残像の残る絵が写って使い物になりません。バッテリーの消耗も激しいので、畳みっぱなしで結構です。 そうなると内蔵ファインダーが頼りなのですが、これもなんとなく人影が分かる程度にまでコントラストが低下しがちなので、少しでも油断するとすぐにフレームアウトしてしまいます。 どうするか? 両目を開いて撮影するのが一番なのですが(写真5)、私はこれが苦手なんです。特にズーム操作を行いながら両目撮影すると混乱してしまいます。 (写真5) もうこうなったらゴーグルを外し、ファインダー側の目をかっ!と見開き、くらーい画像に最大に集中し、心眼で撮りましょう。それしかないのです・・・ 春スキーの時には、なるべくサングラスをして、自分の瞳孔を開かせておきます。サングラスを外すときには、ファインダーを覗く目の方は、つぶっておきましょう。 ●カメラの位置はたすきがけ!? 小さくなったとは言っても、まだまだ大きなビデオカメラ。 持ち歩くには、どこが適当でしょうか? ずばりたすきがけです。これしかありません。慣れれば滑降中もあまり邪魔になりません(写真6)。 (写真6) ザックにしまっていていては、取り出し、収納に時間をさかれすぎてベストショットを逃します。 懐に入れては、体温でカメラが暖まってしまい、レンズ面で雪が融解凍結してしまいます。 防水ケースは耐ショック性にも優れているので、たすきがけにしていてどんなにひどい転び方をしてもたぶん大丈夫です。そのかわり、顔にぶつかって鼻血をだしたりしますが。 転ばなければ良いのです。(^_^) ●防水パックの欠点を把握しておこう 防水パックを使用した撮影法は良いことづくしのように見えますが、いくつか弱点があります。 1.マニュアルフォーカスが使えない 大抵はオートフォーカスで用が足りますが、ロングでパウダーのシーンを撮る際などには、雪煙でオートフォーカスが狂うことがあり、時々フォーカスが甘くなることがあります。無限大で固定したいところですが、防水ケース越しには操作できません。 2.ホワイトバランス調整が行えない これも、フォーカスと同じ理由でホワイトバランスの調整が行えません。 雪の撮影には、ホワイトバランスが重要です。本当は撮影毎に調整する必要があります。 したがって、ビデオを見ると雪の色がバラバラ・・スキーヤーも真っ黒だったりします。 3.マイクが貧弱 防水ケースについている、おもちゃみたいなマイクのせいか、感度が低くてとてもチープな音質です。 スキーヤーの荒い息づかいや、風の音などを拾いたいけど、これじゃあねえ。転んだときの悲鳴くらいしか使えません。 ビデオカメラ本体のマイクも酷いものですが・・・ 私はあきらめていますが、これらの弱点を克服するために、手製のオーバージャケットで撮影している方(雪上用一脚の制作者)もいらっしゃいます(写真7)。 これは、市販のカメラ用レインジャケットにスキーウエア素材を追加して冬季撮影用に改造したもので、いろいろ細部まで工夫されていて、あらゆるマニュアル操作も可能となっています。 主にゲレンデでのレース撮影用として作られたそうですが、時期や天候を選べばツアーでも使えるでしょう。 (写真7) おしまい いかがでしたか?結構苦労があるでしょ?最新のDV カメラをもってしてもこんな状況です。頼りない話しですね・・・でも、バッテリーが寒さに弱かった頃(ニッカドバッテリーの時代)に比べると、状況は格段・・・いや、劇的に改善されています。テープが回るだけでも幸運なのです! これから撮影をしようという方には、最新のカメラの購入をお勧めします。古い8ミリビデオカメラを使おうなんて思わない方が良いです。理由はバッテリーの性能です。 それと、余計なお世話かもしれませんが、ビデオを買うときには、メーカーの保証だけではなくて、ショップ独自の5年保証とかにも入っていた方がよいです。 私の使い方(毎週冬山で撮影)だと毎シーズンのようにカメラのヘッド周りが壊れます(画面にノイズが入るようになる)。幸いショップ保証で毎回機構部を全交換していただいていますが、これがメーカー保証だけだったら大変なことになっていました。 んー冬山撮影は、人にもカメラにも負担が大きいのです・・・・ 撮影アングルですが、どうしてもスキーヤーに対して斜め前からのアングルが多くなりますので、意識して正面、ロング、アップ、後方から、併走撮影(とてつもなく難しいけど)など、いろいろなアングルで撮っておくと編集時に楽です。もし、複数のカメラマンがいたら、ずいぶんと奥行きのある演出が可能になります。 さて、こうやって撮影したおかげで、1シーズンでこんなにビデオを撮り貯めることができました(写真8)。 次回は、編集苦闘編です。これらのビデオ編集装置達(写真9)・・・(といっても普通のパソコンですが)が活躍することになります。 (写真8)(写真9) |